Emiko Daviesがお気に入りのキッチンツールとそれぞれのストーリーについて語る。

By Emiko Davies
翻訳 Emiko Anayama

この記事は、第1号「The Languages of Food」 に掲載されたものです。

今はイタリアに住んでいますが、過去にオーストラリア、中国、そしてアメリカ、と大陸と国を転々としてきました。そんな中で集めてきた大切なキッチンアイテムのほとんどは今でも地球の反対側で箱にしまってある状態です。現在住んでいるところのキッチンがとても狭いため、ナイフ、木製スプーン、日本人の母から譲り受けた菜箸や家宝に値する鍋のように毎日使う物や中にはトリュフ用のおろし金やカンノーリの型みたいに数回しか使わない物もありますが、一番のお気に入りの品だけを置くようにしています。それぞれには違った歴史や用途があって、自分も特別な思い入れがあります。

プンタレッラ用のスライサー

「愛を込めて、ローマより」

例えば、ニンニクにはガーリックプレスなんて必要なくナイフやマイクロプレインさえあればいいと思いますが、ローマにゆかりのあるpuntarelle(プンタレッラ)用のスライサーは私とって特別です。これは、ローマ在住の友人がくれたローマ風冬のサラダpuntarelle alla romanaに必要な道具。イタリア語でtagliapuntarelleという名前で、真ん中に丸い穴が空いた小さい木の板に細く鋭いワイヤーが交互張られている物です。ワイヤーにチコリーの太めの若芽であるプンタレッラを通して薄く均等に切って冷水に浸すとシャキシャキ食感が楽しめます。アンチョビ、ニンニク、オリーブオイルとお酢を混ぜたパンチの効いたドレッシングで召し上がれ。ナイフでプンタレッラを切るより、専用カッターを使った方が断然面白いです。

アーティチョークナイフ

「一つの事をとことん極めて」

フィレンツェを拠点とした若い職人のFabio Figusの手作りナイフを前から集めていて、私にとって一番大切なキッチンアイテムです。去年の誕生日に夫のMarcoがFabioが手掛けた包丁セットと革製のナイフロールケースを買ってくれました。包丁の柄は真鍮のディテールが施されたクルミ材で作られており、ヴィンテージ品のような見た目ですが刃はものすごく鋭いです。包丁セットの中にMarcoがFabioにお願いして特別に作ってもらったアーティチョーク専用の小さいカーブ刃のナイフがあります。一つの食材のためだけの美しい手作りナイフなんて勿体ないと思われるかもしれませんが、我が家ではアーティチョークを一年中サラダや揚げ物やパスタソース等様々な形で食べるのでとても重宝されています。

木べら

「シンプルが賢い」

私は木べらが大好きで、様々な形とサイズの物を揃えています。使えば使うほど味が出るもので、料理の色が移ったり鍋に立てかけっぱなしにしてしまって黒く焦げたのもあります。私の一番のお気に入りは平たい角ばったタイプの木べらです。 真ん中に穴が空いた木べらはリゾットを作るのに便利、というのをベネチアでフードライターをしている友人のValeria Necchioが教えてくれました。混ぜる時にお米が穴を通って逆流する事から「お米回転機」を意味するgirarisoと呼ばれることもあるそうです。お米がより良く混ざるためにリゾットがクリーミーに仕上る画期的な道具。ふわふわなスポンジケーキ生地やペイストリー用のクリームを作る時にもオススメです。

キタッラ

「伝統は永続」

ギターを弾く夫のお気に入りは、chitarra (キタッラ)という木製の大きなパスタ製造機。ギターの弦ように張られたワイヤーで切るパスタは、spaghetti alla chitarraと呼ばれるアブルッツォ地域のもので、よくお肉のラグーと食べられます。この麺は、セモリナ粉と卵を混ぜた生地で出来ていて、キタッラの上で伸ばしたら弦楽器のようにワイヤーをなでると下に落ちるような仕組みになっています。リングイーネやスパゲッティと似ていますが、手打ち蕎麦のように先端が四角いのが特徴です。キタッラが狭い台所でかなり場所を取るので、トスカーナ地方のタリオリーニやパッパルデッレのように機械を使わずに作れないか考えたことも。しかし、キタッラのような伝統的な道具は実際使うと楽しいですし、切れの良さによる特徴的な麺ができることが家宝として代々受け継がれている理由であることに気付きました。

キャストアイロン

「任せておいて」

家宝ということですが、私はキャストアイロンを自分の子供たちに遺したいと考えています。今まで世界中を動き回ってきたため、常に安い調理器具やキッチン用品を買い替えてばかりいました。ある時、イタリア人の友人から、宝物は家族から受け継いだ古く重い鉄の鍋、という話を聞いて自分たちも数年かけて家族のために鉄の鍋を探しました。鍋を手に取った時の重みを感じて、これから調理するローストポテトやフライドエッグがどんな味に仕上がるか想像ができます。キャストアイロンは決して万能ではありませんが、よく熱が伝わり幅広く調理が可能で、私は揚げ物やオーブンで焼くパンとローストに使用。最近では7歳の娘がキャストアイロンで自分のパンケーキを焼くようになりました。